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アサキオリジナル小説「追憶⑧」 [オリジナル小説]

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アサキオリジナル小説「追憶⑧」


第一話はこちら



「マジかよ。それでお前遠藤さんと本当にデートできたの?」



「えぇまぁ」・



「なにが『えぇまぁ』だよ。え?なになに?まさかそのデートをきっかけに遠藤さんとの距離を詰めて、今はもう交際関係に発展してます。なんてオチはやめてくれよ」



言葉とは裏腹に先輩の表情は朗らかなもので、まるで学生時代に部活の先輩と部室で恋愛話でもしているかの様な感覚を不意に思い出した。



「いやいや。さすがにそこまで話は上手く進みませんよ。もし付き合えていたのなら先輩の最初の質問のときに、彼女いないなんて答えませんよ」



「そっか。そっか。ひとまず安心だな」



「なんでそこで安心するんですが」僕は面白くなって噴出してしまった。



「いや、もし付き合ってるのだとしたら、そんな良い話をわざわざ俺が引き出してあげたみたいで癪だからな」先輩はニッコリと微笑みながらまたしても缶コーヒーに手を伸ばした。



「じゃあ落ち着いて続きが聞けるな。で、どんな華麗さを持ってお前は粉砕したんだ」



「極端すぎますよ!なんで付き合ってないっていうと次は粉砕になるんですか!」



「だってそうだろ。いや。もはやそうじゃないと面白くない!」



こんな愉快な喋りをする先輩を見るのは初めてだったので、僕もなんだか面白くなってきた。同時に人は幾つになっても学生時代と同じようなテンションで他人の恋愛話しを楽しめるのだなと、そんなどうでも良いことまで同時に考えた。



「わかったわかった。お前の粉砕はもう期待しないから続きを聞かせてくれよ」



「もちろんそのつもりですけど、ここから先は何とも難しいというか、歯切れが悪いというか…」



僕のそんな煮え切らない態度にも先輩は突っ込んでくることもなく、お蔭で僕は自分のペースで話を続けることが出来た。





結論から言ってしまえば、遠藤さんとのデートは大成功に終わった。



当日の天気にも恵まれ、予定していたプランも滞りなく実行することが出来た。



移動中の車内では前回の展示会以上に遠藤さんと打ち解けて、様々な話をした。遠藤さんが実は全くの運動音痴で、学生時代にも体育系の部活には一切入っていなかったこと、写真に興味を持ったのは大学に入ってからで、そのきっかけはもともと旅行が好きだったことから、思い出づくりに買った一台のデジタルカメラが発端となっていること、などなど、その他にも様々なことを話すことが出来た。



ただし、ひとつだけ引っかかる話もあった。それは全ての予定を終えた帰り道の車内だった。豊洲に住む友達の家を寄っていくといった遠藤さんを送るため、湾岸道路を西に向かって走っているとき、僕はどうしても最後に一つだけ確認したくなってしまったのだ。



それは「遠藤さんには彼氏がいるのか」といった実にシンプルな問題で、でもだからこそ僕はこの問題に向き合うのが怖くて、今日一日中この話には一切触れないようにしていた。



会話が一区切り付き、少しの間を開けてから僕は尋ねた。出来るだけ自然にでも軽々しい印象は与えたくなかったので、少し言葉のトーンは抑える様に注意した。



「今日は一日本当にありがとうございました。九十九里とっても楽しかったですね。昼に食べた海鮮丼も美味しかったし。でも大丈夫なんですが、彼氏さんとかいらっしゃったらなんか申し訳ないです。せっかくの休日を一日中使ってしまって」



自分でも笑ってしまう程不自然だった。ただ僕なりに考えた精一杯だった。



そんな僕の不格好な質問に、遠藤さんは屈託ない笑顔で答えてくれた…



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