アサキオリジナル小説「追憶⑥」 [オリジナル小説]
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アサキオリジナル小説「追憶⑥」
第一話はこちら
展示会場の奥にはスタッフの待機所のような簡易的なスペースがあり、その部屋から現れた遠藤さんは、僕らの姿を見つけるなり頬を緩めて近づいてきてくれた。
遠藤さんと対面するなり僕は自分の体温が上昇するのを感じた。それでもそんな気持ち
を悟られないように頑張って自分から話しかけていった。
「こんばんは。今日はご招待いただきありがとうございます。河内さんからお話を伺い参加させてもらいました。これは少しですが皆さんで召し上がって貰えたらと思ってワインを持ってきました」
一息で喋りきるとワインの入った紙袋を遠藤さんに差し出した。目の端に河内さんのにやけ面が入ったが僕は気にしないことにした。
僕のかしこまった挨拶に遠藤さんはクスッと笑った。
「こんばんは。会社じゃないんだからもっと気楽にしてよ。それより今日は来てくれてありがとう。簡単な食事も用意しているからゆっくりしていってね。あと、ワインもありがとう。せっかくだから直ぐに開けて皆で飲もうか」
「村上は今日をとっても楽しみにしていたんですよ。本当に僕なんかがいってもいいんですか。何てしつこく聞いてくるもんだから腕を引っ張って連れてきました」
河内さんの言葉に遠藤さんはまたしてもクスッと笑ってくれたが、僕はそれ以上に、よくもまあそんな軽口がスラスラと出てくるもんだと河内さんの凄さを改めて再認識させられた。
でもそんな河内さんの軽口のお蔭で僕の緊張も直ぐに解け、それからはみんなで楽しく談笑しながら写真の話や、僕らの職場の上司の悪口なんかでひとしきり盛り上がった。
そんな流れの中で僕は展示会場に入った当初から気になっていた一枚の写真について遠藤さんに尋ねた。
「遠藤さん。さっきから気になっていたんですけど、この一枚はどこで撮られたんですか。間違っていたら悪いんですけど、この感じは九十九里浜のような気がしていて」
その写真は夏の砂浜を移した綺麗な風景写真で、写真一面に広々と砂浜が続く感じがどこか見覚えのある感覚だった。
「そうだよ。これは去年の夏に九十九里に行ったときに撮った写真なんだ。そっか。村上君の実家は千葉だったよね。それにしてもこの一枚だけでわかったね」
「ええまぁ。九十九里には週末にドライブがてらよく行くので、もしかしたらな、と思ったんですよ」
僕は心の中で小さくガッツポーズをしていた。僕は少しでも遠藤さんと話すきっかけが欲しくて、この写真を皮切りに更に色々な話をすることが出来た。
また、そのころになると河内さんの姿は自然と消えていた。
話が一段落して外の空気を吸おうと外に出ると、入り口に設置された灰皿を前に河内さんは煙草をふかしていた。
「ずいぶん良い雰囲気で話してたじゃんかよ。どうなの、デートのお誘いぐらいできたのか」
「いやいや。そんな直ぐには無理ですよ。まともにこんな長く話が出来たのは今日が初めてなんですよ」
「そんなの関係ないだろ。こういうのはタイミングが勝負なんだから、軽い気持ちで誘っちゃえばいいんだよ」
河口さんは言葉通りなんてことにないように僕に話してくれるが、その言葉を実行に移せるだけの勇気が僕にはまだなかった。そんな僕の内心を悟ったのか、河口さんは続けて言った。
「困ったやつだな。俺がもうひと肌脱いでやるからちゃんと着いてこい」
煙草を灰皿にすり潰しながら話す河口さんの姿はとても頼りになったが、同時に,このまま本当に話が進み遠藤さんとデート出来ることになったらどうしようと,まだ決まってもいない未来を想像して僕の心は既に動揺していた。
続きはこちら
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展示会場の奥にはスタッフの待機所のような簡易的なスペースがあり、その部屋から現れた遠藤さんは、僕らの姿を見つけるなり頬を緩めて近づいてきてくれた。
遠藤さんと対面するなり僕は自分の体温が上昇するのを感じた。それでもそんな気持ち
を悟られないように頑張って自分から話しかけていった。
「こんばんは。今日はご招待いただきありがとうございます。河内さんからお話を伺い参加させてもらいました。これは少しですが皆さんで召し上がって貰えたらと思ってワインを持ってきました」
一息で喋りきるとワインの入った紙袋を遠藤さんに差し出した。目の端に河内さんのにやけ面が入ったが僕は気にしないことにした。
僕のかしこまった挨拶に遠藤さんはクスッと笑った。
「こんばんは。会社じゃないんだからもっと気楽にしてよ。それより今日は来てくれてありがとう。簡単な食事も用意しているからゆっくりしていってね。あと、ワインもありがとう。せっかくだから直ぐに開けて皆で飲もうか」
「村上は今日をとっても楽しみにしていたんですよ。本当に僕なんかがいってもいいんですか。何てしつこく聞いてくるもんだから腕を引っ張って連れてきました」
河内さんの言葉に遠藤さんはまたしてもクスッと笑ってくれたが、僕はそれ以上に、よくもまあそんな軽口がスラスラと出てくるもんだと河内さんの凄さを改めて再認識させられた。
でもそんな河内さんの軽口のお蔭で僕の緊張も直ぐに解け、それからはみんなで楽しく談笑しながら写真の話や、僕らの職場の上司の悪口なんかでひとしきり盛り上がった。
そんな流れの中で僕は展示会場に入った当初から気になっていた一枚の写真について遠藤さんに尋ねた。
「遠藤さん。さっきから気になっていたんですけど、この一枚はどこで撮られたんですか。間違っていたら悪いんですけど、この感じは九十九里浜のような気がしていて」
その写真は夏の砂浜を移した綺麗な風景写真で、写真一面に広々と砂浜が続く感じがどこか見覚えのある感覚だった。
「そうだよ。これは去年の夏に九十九里に行ったときに撮った写真なんだ。そっか。村上君の実家は千葉だったよね。それにしてもこの一枚だけでわかったね」
「ええまぁ。九十九里には週末にドライブがてらよく行くので、もしかしたらな、と思ったんですよ」
僕は心の中で小さくガッツポーズをしていた。僕は少しでも遠藤さんと話すきっかけが欲しくて、この写真を皮切りに更に色々な話をすることが出来た。
また、そのころになると河内さんの姿は自然と消えていた。
話が一段落して外の空気を吸おうと外に出ると、入り口に設置された灰皿を前に河内さんは煙草をふかしていた。
「ずいぶん良い雰囲気で話してたじゃんかよ。どうなの、デートのお誘いぐらいできたのか」
「いやいや。そんな直ぐには無理ですよ。まともにこんな長く話が出来たのは今日が初めてなんですよ」
「そんなの関係ないだろ。こういうのはタイミングが勝負なんだから、軽い気持ちで誘っちゃえばいいんだよ」
河口さんは言葉通りなんてことにないように僕に話してくれるが、その言葉を実行に移せるだけの勇気が僕にはまだなかった。そんな僕の内心を悟ったのか、河口さんは続けて言った。
「困ったやつだな。俺がもうひと肌脱いでやるからちゃんと着いてこい」
煙草を灰皿にすり潰しながら話す河口さんの姿はとても頼りになったが、同時に,このまま本当に話が進み遠藤さんとデート出来ることになったらどうしようと,まだ決まってもいない未来を想像して僕の心は既に動揺していた。
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